文章の力

2009.03.12 木曜日

朝一番、エクスパックが届く。
中には母の好きだった高野山のごま豆腐と共に、手紙と随筆文が添えられてあった。

 

もうすぐ母の四十九日になる。

 

素晴らしく達筆な字で書かれた手紙には、母との想い出や記憶に残る情景が生き生きと綴られている。

 

なんて美しいお手紙なんだろう。

 

作家であるおばさまを子どもの頃「津名さんのおばちゃん」と呼んでいた。

 

「めぐみちゃんならここがいいわよ」
大学の非常勤講師をされていた当時、私の大学の進路を決めて下さった人である。

 

同封された随筆「こっくりさん」と「婦人服とポケット」は昭和46年に書かれたもの。

 

「こっくりさん」には中学3年の姉と小学6年の私とおばさまが、当時流行っていたこっくりさんをする情景。

「婦人服とポケット」には当時のおばさまと母とのやりとりが書かれている。

 

読み進めるにつれ、そのころの場面が目の前に生き生きとよみがえる。

 

まだ既製服のデザインがいまひとつ、あつらえが一番だった時代。

 

デザインと洋裁をしていた母にポケットのある服を注文したが、「絶対に否」。 仕事着としてポケットが必要というおばさまに、「婦人服にポケットは無用、線が崩れる」と応じない母。 それぞれが頑固に自分の信念を曲げず、服のデザインと機能を思う戦いである。

 

服をデザインし作るまでの母の姿も書かれていた。

 

☆☆☆

一着の服を作るまでの彼女のウォーミング・アップはこんなふうだ。

 

まず依頼者について日常生活の心のひだまで知ろうとする。
つぎに預かった布地を部屋に掛けてながめ暮らし、撫でさすり、淫するばかりに感触を楽しんで最低一ヶ月に及ぶ。

その上でやっと寸法取り。
それから先、依頼者は息をひそめてまた最低一ヶ月待たねばならぬ。

決して催促してはならない。

ほとんど忘れたころ、不意に透明な声で電話がかかる。
仮縫いである。ここからは早い。

 

☆☆☆

 

ファッションと建築、分野は違うけれどデザインという道に進んだのは母の影響が強い。

40代の母と自分を重ね合わせ、受け継いだ気質に思わず笑みがこぼれた。 作った服を「天人の羽衣かくや」と書いてくださっているのも誇りに思う。

 

文章には素晴らしい力がある。

魂をタイムマシンに乗せ時代を飛び、生き生きとしたその時に連れて行ってくれる。

40代半ばの母は、文章の中に生きている。

「津名道代」名前を調べると宗教歴史家という肩書きもあり、出されている本も多い。

忘れかけた縁の糸を母が又紡いでくれたのかと思い、早速「津名さんのおばちゃん」の本を読みたいと思う。