記憶をつなぐ 過去-現代-未来

2019.02.23 土曜日

記憶に刻まれる場面4

– 記憶をつなぐ 過去-現代-未来 –


月間KOBECCO 10月号掲載 -2004

 

建築をつくるとき、その建築が存在する場所性や歴史性を考える。
場所が持つエネルギー、歴史に刻まれてきた記憶のエッセンスをすくい取り、現代の建築にちりばめることが出来ればと思う。

 

震災で多くの建築を失った神戸は、確かに物体としての歴史は失ってしまった。

 

しかし、場における存在価値、その空間の中で過ごした時間や空気感、五感に響かせたものが人々の記憶の中に生き続ける限り、存在する意味は生き続ける。時代を経て、存在する建築は場の持つエネルギーを受け、刻まれた時間と共に過去-現代-未来へとつながっていく。

 

古い建築が時代の流れと共にある役割を終えても、形を変え、新しい息吹を吹き込むことで、新しい役割を得て再生し、次の時代へ歴史をつないでいくことは、変化の目まぐるしい現代社会において、益々大切なこととなる。

 

建築において経済性、利便性、快適性、時間のバランスを考えることは必要不可欠だが、思慮なく簡単にスクラップアンドビルドされるのではなく、その価値を見出し次の時代へつないでいくことの大切さを、常に意識していかなければと思う。

 

壊すのは一瞬だが、美しいまちなみが出来るのには多くの時間がかかる。

 

過去の記憶を現代、未来へとつなぎ、古い建築を慈しみ生かし、新しい建築にも過去の記憶のエッセンスをちりばめる。目に見える美しさや利便性だけではなく、心に刻まれる記憶の場面は何にも変えがたいものだとと思う。

 

町屋のダイニングバー,神戸,設計事務所町屋ダイニングバー,神戸,設計事務所
築70年余の町屋をレストランに改装。
2階居室の天井を撤去し、時代を経た力強い丸太梁を現している。部分的に柱を鏡で覆い、新しい素材と古い素材が出合い混在する。

 

町屋ダイニングバー,神戸,設計事務所
現代の素材を多く使ったレストラン1階のカウンターコーナー。
2階空間へのプロローグ。

 

町屋ダイニングバー,神戸,設計事務所
過去-現代-未来へと時を繋ぐ意味を込めて架けた、仮設的な金属階段。