含みある場 玄関-廊下-階段
2019.02.23 土曜日
記憶に刻まれる場面3
– 含みある場 玄関-廊下-階段 –
月間KOBECCO 9月号掲載 -2004
物語には起承転結があり、章が変わると次の場面へと物語が展開する。
建築をつくることは、物語をつくる、あるいは演劇をつくることと似ている。
どのように空間に起承転結をつくるか、舞台をどう展開し、どれだけの物語をその中に込めることが出来るかで、豊かな空間になるかが決まってくる。
住まいを考える時、玄関・廊下・階段といった人の視線が移動する場は魅力的でワクワクとするところである。
それらは、物語の表紙をめくる、あるいは章が変わる丁度そのページをめくる所作に似ている。
視線の移動が少ないLDKや部屋が一つの章、一つの場面だとすると、部屋から部屋へ、階下から階上へ、視線が移動する場は、場面が変わる時間の余白、間合いのような空間である。
玄関の扉を開けたその瞬間、外の世界から内の世界へ場面が展開する。住まい手の個性が醸し出される舞台幕開けの瞬間である。
廊下を抜け、階段をのぼる。窓から差し込む陽光が、時間の流れ、季節の移り変わり感じさせ、陽光が生み出す明暗コントラストのドラマは、二元対比の世界をつくる。窓から垣間見える風景は、コマ送りのように次の場面へのプロローグとなり、エピローグとなる。
視線の移動する場は、より印象的に、その場面を記憶に刻む。
単なる通過する場所としてではなく、日々繰り返されるドラマの間合いの時間と空気をつくる、「含み」ある場と意識し、新たな楽しみを発見して欲しい。
階上へ場面は展開し、吹き抜けから降り注ぐ陽光が空間にリズムをつくる。
玄関扉を開けると視線は一直線に抜け、階段は視線を上へと導く。
水平垂直ののびやかさ、明暗のコントラストがドラマをつくる。
天窓からの陽光が、ストリップ階段を透過し描く陰影は季節や時間の経過を感じさせる。
スパイラルに天に延びる螺旋階段は屋上場面へのプロローグ。